靴 1.5足

 母と2人で秋田の祖父母宅に行ってきた。
帰宅日。
旅行なんてする暇もないまま年を取り、色々な土地の話を聞くのが好きなひいばあちゃんに、沖縄の話をする。
「夏は35度とか40度になることもあるんだよ」
「ほぉ、ほんとうかねえ。信じらんないねえ。」
楽しそうに聞くおばあちゃん。
さて、そろそろ帰る時間。
片付け始めるが履いてきた薄緑のサンダルが片方ない。
昔から伝わる奇妙な話が頭を過ぎる。
・・・嫌な予感。
仕方なく靴は諦め、2階へ荷物を取りに行く。
長い階段の途中で一番下の従妹に会う。
「ねえねえ、ちょっと聞いてよ。私そろそろ高校受験なんだけど、どうしよう」
「うーん。勉強するしかないよね。どう考えても」
「やっぱりそっか。じゃあ仕方ないから一緒に頑張ろう!」
はい、頑張らせていただきます・・・。

 2階に着くと同時に、なんだか背後に視線を感じる。
さっさと下に戻ろう、と、風呂敷やら衣類やら回収し、忘れ物がないかどうか見渡す。
携帯電話を忘れていた。危ない危ない・・・ん、光っている。
画面を見ると「Eメールあり?」
最後の?は何ですか・・・・・・。
一気に鳥肌が立つ。
さっさと階段を降りようと歩き出すと、微かに笛の音がする、ような気がする。
耳を澄ませる。
段々近づく笛の音。
もう一度部屋の中央まで戻ってみる。
すると奥から背広を着た30前半くらいの男性1人とエプロン姿の中年女性2人が竹でできたメロデイ型縦笛を吹きながら現れる。
皆身長1メートル程。
ああ、これが噂の妖怪か。
緊張して立ち尽くしていると、目の前で3人は歩みを止める。
男性が口を開く。
「まつざきあゆみさんですか?」
「はい、そうです」
「これは、あなたの履物ですか?」
差し出された白塗りの木箱の中には見覚えのあるサンダル1組と、白い革靴が片方だけ。
彼らは客がやってくると靴を片方こっそり持ち去り、それに合わせた靴を片方だけ作り、合計1.5組にして返してくれると言われている。
ただ、質問への回答如何によっては、怒って全て持ち去ってしまうこともある。
よし、落ち着いて答えよう。
「両端の薄緑の靴は私のものです。真ん中の白い靴は違います。」
「そうですか。では、この3足を、あなたに差し上げます。」
「私は非常に嬉しいです。どうもありがとうございます。」
反射的に外国語直訳状態の日本語になる。
蓋を閉じて差し出された木箱を受け取り、
「ありがとうございます」と一礼すると、男性が
「では、こちらへどうぞ」
言われた方を眺めると、いつの間にやらエスカレータが5台。
しかしよく見ると全て上り。大変なスピードで動いているので、逆走も不可能だろう。
これも何かを試されているのだろうか・・・?
一瞬躊躇った後、
「失礼致します。」と一礼し、階段を降りる。

 無事1階へ戻る。
ひいばあちゃんに報告。
「さっき2階で靴返してもらったの!」
「そうかいそうかい。大切にするんだよ。」
帰路に着く。

ネズミランドのバナナゾンビ

 高校の隣がサンリオピューロランドだったように(実際にはアルバイト先の隣である)、
大学の隣はネズミの国である。
テーマパークに興味の無い私、でも折角だからと卒業前に一度行ってみることにする。
乗り物に乗って進むお化け屋敷がある。
正直苦手なのだが、友人たちの手前、ドキドキしつつ乗り込む。
古く立派な洋館に入っていく。
長い階段(の上に設置されたレール)の上を下りて行く。
地下室に通じるようだ。
曲がり角を曲がったその途端!!!!!
バナナ片手に、「これを食え」と詰め寄るゾンビ。
私はその光景にどうしても我慢ならず、一定の速度で進み続けるコースターから降りた。
「いいこと、バナナだけ食べ続けたら栄養が偏って体の毒にしかならないわ。それに、糖分の取りすぎにもなる。たまには食生活を見直してみなさい」
嫌がるゾンビの口にバナナをぐりぐり押し込む。
本人はバナナが嫌いらしい。

ぼらうつぼ

 高校の時分、日本国憲法の歌を歌う会、略して日憲会という有志団体が存在した。
本日は、学校祭か何かで、ステージで歌を歌うことになっているらしい。
前日になりピアニストの急遽欠席が決まり、暇人が他に見当たらず私が伴奏者代理を引き受ける。
一晩で数曲何とか覚える。
 今回のメインは、ボラウツボに関する新曲。
ボラウツボとは、ボラみたいなウツボである。
ボラウツボは、深海に住み、鮮やかな青い体に黄色い背びれ、尾びれ、胸びれそして提灯を持ち、ぼんやりと体全体が発光している。
現物およくよく観察すれば稀に見る美しさをしているのだが、写真やら絵から得られる情報では、どうしてもそのひょうきんすぎる顔つきにしか目が行かず、この世界では基本的に「変な顔」「ひょうきん」「まぬけ面」の代名詞とされている。
もちろん日憲会も、ひょうきんさについて取り上げて歌ったのだが、途中、ほんの少しだけ、おまけ程度に色合いの美しさに言及していた。それを聴いたお客の一人が、ボラウツボの美しさを知っているなんて・・・!!!と感激し、あまりの感激に、終演後もずっとハンカチ片手に泣いていた。彼女は日本に於けるボラウツボ研究の第一人者であった。
ひとまずピアノも無事弾き終え、ぐたっとしていると、私の腕を引っ張るスタッフ。
???
「次がメインじゃないですか!ほら!」
すっかり忘れていたが、日憲会の後にピアノで出し物をすることになっていた。
練習は、していない。
楽譜に目を通してもいない・・・・・・ええと、どうしよう。


 旅先。
一人薄暗い旅館の部屋に居る。
広すぎるし、寝台も幾つか置いてある。
一人でいることに違和感を覚える。
クローゼットを開けると、ずらりとならぶ女物の色鮮やかな浴衣。
本当は他にも人がいるのに、私に見えていないだけではあるまいかと気味悪くなる。
プロフィール

drecom_ayuwo

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